医療・健康

アリピプラゾールの概日リズム睡眠障害に対する改善効果の作用機序を解明

研究イメージ画像 (Image by Natalllenka.m/Shutterstock)

 概日リズム睡眠障害の改善に有効とされるアリピプラゾールは、生物リズムを司る間脳視床下部に存在する概日時計中枢に作用し、神経細胞間のコミュニケーションを弱めることにより、概日時計が外界の明暗サイクルに適応しやすいようにしていることが分かりました。

 アリピプラゾールは統合失調症や双極性障害などの精神疾患の治療薬として長年使われています。近年、アリピプラゾールは早起きを促し、極度の遅寝遅起きである睡眠相後退症候群などの概日リズム睡眠障害の改善に有効であることが報告されていましたが、その作用機序は不明でした。


 本研究では、マウスにおいて、アリピプラゾールが概日時計中枢に直接影響を与え、睡眠覚醒リズムを調節していることを見いだしました。哺乳類の概日時計中枢は間脳視床下部の視交叉上核(SCN)に存在します。SCNの時計ニューロンは互いに同期しており、外界からの刺激がなくとも約24時間のリズムを刻みます。同時に、SCNには外界の光刺激が入力し、環境の明暗サイクルに適応することができます。アリピプラゾールは、SCNの時計ニューロン間の同期を弱めることにより、より外界の光サイクルに反応しやすくする作用があることが分かりました。また、SCNの神経細胞はさまざまな神経伝達物質の受容体を発現しており、アリピプラゾールは、そのうちの一つであるセロトニン1A受容体に作用し、SCNの細胞内シグナル伝達に影響を及ぼすことが分かりました。


 本研究から、アリピプラゾールによって睡眠相後退症候群の患者が早寝早起きできるようになるのは、概日時計が環境の光サイクルに適応しやすくなり、睡眠覚醒リズムの位相が正常に戻るためだと考えられました。今後、アリピプラゾールは、統合失調症や双極性障害以外に、睡眠障害の治療薬としても利用できることが期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系/国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
櫻井 武 教授


掲載論文

【題名】
Aripiprazole disrupts cellular synchrony in the suprachiasmatic nucleus and enhances entrainment to environmental light-dark cycles in mice.
(アリピプラゾールは視交叉上核の細胞間同調を減弱させることにより外界明暗サイクルへの同調を促進する)
【掲載誌】
Frontiers in Neuroscience
【DOI】
10.3389/fnins.2023.1201137

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国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)