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肝臓の中で胆管ができる仕組みを解明

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(Image by Lightspring/Shutterstock)
 胆管は、肝細胞でつくられた胆汁を肝臓の中から小腸へ運ぶ管です。胆管の内壁を覆う胆管上皮細胞は肝細胞と共通の前駆細胞から分化しますが、肝臓全体に分布する肝細胞とは異なり、門脈と呼ばれる静脈に沿うように分化します。その分子機構を解明しました。人工臓器開発にも貢献する成果です。

 胆管は、肝細胞でつくられた胆汁を肝臓の中から小腸へ運ぶ管です。ヒト胎児の肝臓では、門脈と呼ばれる静脈を取り囲むように胆管上皮細胞ができ、その外側に肝細胞ができることで胆管が形成されます。胆管上皮細胞も肝細胞も共通する前駆細胞(肝芽細胞)が分化してできます。この時、肝芽細胞の細胞膜上にあるNotchと呼ばれる受容体に、門脈細胞から出た分子(リガンド)が働きかける(これをNotchシグナル伝達経路と言います)ことで、胆管上皮細胞に分化することは知られていました。しかし、門脈に沿ってだけ胆管上皮細胞への分化が起きる分子機構は分かっていませんでした。


 本研究では、ヒト胎児の肝臓の公開データを解析しました。ヒト胎児の肝臓を構成する主要な細胞は門脈細胞、肝芽細胞、主に赤血球となる造血細胞の3種類でした。大人の赤血球は骨髄で作られますが、胎児では肝臓で作られています。


これらの細胞がNotchシグナル伝達経路の構成要素として働く能力を調べたところ、門脈の細胞だけが、主要なリガンドであるタンパク質JAG1を発現してシグナルを送る能力を持っていました。また、主要な受容体であるNOTCH1やNOTCH2を発現してシグナルの受け手となる能力を持つ細胞は肝芽細胞に限られました。造血細胞はどちらの能力も持っていませんでした。


 これらの結果は、門脈に沿って存在する肝芽細胞はNotchシグナルを受け取って胆管上皮細胞に分化する一方、門脈から離れた場所には造血細胞や肝芽細胞が障壁となってシグナルが伝わらず、胆管上皮細胞への分化が起きないことを意味します。


 本研究チームはこれまで、Notchシグナルが組織内で広く伝播したり限局したりする条件を数理解析によって検証してきました。本研究の結果は、数理解析で得られたNotchシグナルが限局する条件(リガンドまたは受容体の産生速度が遅いこと)に一致しており、これまでの数理解析結果を分子生物学的に裏付けるものとなりました。


 肝臓で胆管がつくられる分子機構を解明したことは、人工臓器の開発にも貢献すると期待されます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系
高橋 智 教授


掲載論文

【題名】
Chromatin accessibility analysis suggested vascular induction of the biliary epithelium via the Notch signaling pathway in the human liver.
(クロマチンアクセッシビリティー解析により、ヒト肝臓においてNotchシグナル経路を介して血管が胆管上皮を誘導すると示唆された)
【掲載誌】
BMC Research Notes
【DOI】
10.1186/s13104-023-06674-8

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