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左右の腎臓が互いに機能のバランスを調節するメカニズムを解明

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(Image by crystal light/Shutterstock)
 左右の腎臓のうち片側だけに障害を誘導することのできる独自のマウスモデルを開発しました。これを用いて「左右の腎臓が機能的・構造的なバランスを保とうとする現象(腎カウンターバランス)」の分子メカニズムを初めて明らかにしました。

 腎臓は左右一対の臓器であり、一方の腎機能が低下すると、他方が代償的に働きを高めることが知られており、このような左右間の動的なバランス調節は、「腎カウンターバランス」と呼ばれています。しかしながら、そのメカニズムは長年不明でした。

 本研究では、マウスの糸球体足細胞(腎臓の糸球体表面の上皮細胞)に選択的な障害を与え、片側の腎臓のみに足細胞障害を誘導する2K1Nモデルを開発しました。このモデルでは、障害腎への血流が時間の経過とともに著しく低下し、障害腎由来の蛋白尿は消失しました。そして、健常側の腎臓が代償的に機能を担い、全身の水バランスや血圧が維持されていました。一方、両側の腎臓に同等の障害を負わせた2K2Nモデルでは、血流の不均衡が認められず、全身性の浮腫や蛋白尿が悪化しました。

 この2K1Nモデルを用いて、腎臓内の遺伝子発現と分子レベルの変化を詳しく調べた結果、障害を受けた腎臓と健常な腎臓とで血圧を上昇させるホルモンであるAng IIの産生量が顕著に異なり、この局所的なAng IIの不均衡が、障害腎の血流低下と糸球体虚脱を引き起こすことが明らかになりました。

 これらの結果から、左右の腎臓が互いに影響を及ぼし合いながらバランスを取ろうとする中で、そのバランスが崩れることが、腎疾患の進行に深く関与していることが示唆されました。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学 医学医療系
坂本 和雄 人間総合科学研究科 生命システム医学専攻 (研究当時、現:神戸大学医学部附属病院 腎・血液浄化センター 特定助教)
川西 邦夫 助教(研究当時、現:昭和医科大学医学部解剖学講座顕微解剖学部門 教授)


筑波大学 生存ダイナミクス研究センター
金 俊達 助教(研究当時、現:富山大学 和漢医薬学総合研究所 研究開発部門 複雑系解析分野 准教授)

東海大学 医学部 医学科生体機能学
松阪 泰二 教授

掲載論文

【題名】
A Novel Glomerulopathy Model Demonstrates Renal Counterbalance via Local Angiotensin II Regulation
(新規糸球体腎症モデルを用いた腎局所アンジオテンシンIIによる腎カウンターバランス制御機構の解明)
【掲載誌】
Proceedings of the Japan Academy, Series B(日本学士院紀要B)
【DOI】
10.2183/pjab.101.025

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