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乳がん転移を導く「がん細胞-免疫細胞間シグナル」を解明

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(Image by Nemes Laszlo/Shutterstock)
 乳がんの中でも特に再発や転移の頻度が高いトリプルネガティブ乳がんにおいて、腫瘍細胞に発現する糖タンパク質GPNMBが、免疫抑制性の腫瘍随伴マクロファージの分化を促進し、がんの上皮間葉転換と転移を誘導する分子機構を明らかにしました。

 がんの死因の大半を占める「転移」は、腫瘍を取り巻く微小環境の変化によって引き起こされます。特に、トリプルネガティブ乳がん(TNBC:エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2受容体がすべて陰性の乳がん)は進行が速く、再発や転移の頻度が高い予後不良ながんです。本研究では、TNBC細胞に発現する糖タンパク質GPNMBが、免疫細胞であるマクロファージに働きかけ、腫瘍に有利な(転移しやすい)免疫抑制性の環境を作る仕組みを明らかにしました。

 がん細胞に発現するGPNMBは、がん特有のシアル酸修飾を受けており、これにより、マクロファージ上に発現するSiglec-9受容体と高い選択性で結合することが分かりました。GPNMBは、腫瘍微小環境における多様な免疫抑制性マクロファージ(TAM)の誘導を促進する役割があり、その中でもSiglec-9は、シアル化GPNMBとの相互作用を介して、特定のTAMサブセットの分化と機能制御に関与する分子として同定されました。さらに、Siglec-9陽性TAMが、がん細胞の浸潤性とEMT(上皮間葉転換)促進に関与することが示されました。

 マウスモデルを用いた実験では、Siglec-E(マウスにおけるヒトSiglec-9の機能的相同分子)および免疫チェックポイント受容体PD-1の阻害が、サイトカインIL-6を介したEMTや腫瘍の転移を有意に抑制しました。これらの結果から、腫瘍細胞に発現するGPNMBとマクロファージに発現するSiglec-9との相互作用による腫瘍微小環境の免疫抑制的な再プログラム化が、TNBCの進行と治療抵抗性に関与する中心的な経路であると考えられ、新規免疫療法開発における有望な標的となる可能性があります。

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プレスリリース

研究代表者

筑波大学医学医療系
川西 邦夫 助教(研究当時、現:昭和医科大学医学部解剖学講座顕微解剖学部門 教授)
加藤 光保 教授

掲載論文

【題名】
Tumor-expressed GPNMB orchestrates Siglec-9⁺ TAM polarization and EMT to promote metastasis in triple-negative breast cancer
(GPNMB-Siglec-9軸による免疫抑制性TAMの再プログラム化とTNBC転移の分子機構)
【掲載誌】
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
【DOI】
10.1073/pnas.2503081122

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