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TSUKUBA FUTURE #011:パズルの国の数学

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数理物質系 坂井 公 准教授


 北米で40万部以上の発行部数を誇る一般向けの月刊科学雑誌『SCIENTIFIC AMERICAN』で、1956年から25年間も続いた人気の連載がありました。故マーティン・ガードナーの「数学ゲーム」です。同誌の日本版にあたる『日経サイエンス』(1971年の創刊時の誌名は『サイエンス』)でも、創刊以来その翻訳記事が人気を博していました。しかしガードナーの連載は、惜しまれつつも1981年に終了してしまいました。学生時代からガードナーのファンで、やがて連載記事の翻訳にも協力するようになっていた坂井さんにとっても、それはとても残念なことだったといいます。


『日経サイエンス』の連載ページ。

『日経サイエンス』の連載ページ。斉藤重之さん(筑波大学・旧情報学類卒業)のイラストも好評。


 かねがね坂井さんは、数学パズルの新しい連載を提案したいと思っていました。ただし、ガードナーの衣鉢を継ぐような数学パズルを自分で考案するのはとても無理と思っていたところ、思わぬ天恵に浴しました。米国の数学者ピーター・ウィンクラーの『数学パズル』という本と出会ったのです。それは、おもしろくてわかりやすい問題なのに、すぐには解き方がわからないものの、一般的な数学の原理に気づくとスイスイ解けてしまい、解答も理解しやすいという原則に沿った問題集です。しかし、その提示のしかたは、エッセンスだけの、実にそっけないものでした。


 そこで坂井さんは、ウィンクラーご本人にコンタクトし、著書の中の問題を借用してアレンジしてもよいかどうかを問い合わせました。回答は好意的で、ガードナーに負けないようなものにしてほしいと激励までされてしまったといいます。


そのような経緯で『日経サイエンス』2009年5月号から始まったのが「パズルの国のアリス」という連載です。連載タイトルは、坂井さんが大好きな『不思議の国のアリス』にひっかけています。『アリス』には、いろいろな言葉遊びや判じ物が登場します。実は、作者のルイス・キャロルは、本名チャールズ・ドジソンという、記号論理学を専門とするオックスフォード大学の数学者でした。そんな因縁もあって、坂井さんは、数学パズルの連載を『不思議の国のアリス』へのオマージュという体裁をとることにしたのです。


テーブル・パズルのコレクションの一部

テーブル・パズルのコレクションの一部書棚に飾られたアリスグッズ。


書棚に飾られたアリスグッズ。右が娘さん自作のカリンバ

右が娘さん自作のカリンバ



 大学では情報科学を学んだ坂井さんは、民間会社勤務を経て、第五世代コンピュータプロジェクトに参加しました。第五世代コンピュータプロジェクトとは、新しい概念に基づく新世代コンピュータ技術開発を掲げ、1982年から10年間にわたって実施された国家プロジェクトです。多くの人材を育てたそのプロジェクトが終了し、坂井さんは筑波大学に着任しました。


 坂井さんの専門は理論計算機科学、組合せ的ゲーム理論です。ある条件の下での組み合わせの数がどれくらいあるか、最適な解はあるかなどを計算する数学の一分野です。コンピュータの将棋ソフトなども、広い意味でこの範疇に入るそうです。


アリスのマグカップのコレクションも

アリスのマグカップのコレクションも


 坂井さん自身は、ゲームやパズルにそれほどのめり込むタイプではないそうです。むしろ、パズルを解くための論理や思考法に興味があるとのこと。ただ、雑誌連載を始めてから、知恵の輪などのテーブル・パズルが自然に集まってしまったとか。研究室の片隅の段ボール箱にも、いろいろ面白そうなものが詰まっています。


 また、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』を連載の素材にしていることから、アリスものグッズの収集も、少しずつですが始めたそうです。書棚には、デザインを勉強しているお嬢さんが作ってくれた、アリスをあしらったカリンバ(親指ピアノ)も飾られていました。


 大学で専門科目として学ぶ数学は、高校までの、問題を解くだけの数学、入試のための数学とはまったく異なるそうです。なので、高校数学が得意だったのに、大学に入ってカルチャーショックを受ける学生もいれば、逆に大学で本格的な数学を学んで数学が大好きになる学生もいるとか。数学をめぐる先入観にとりつかれているのは、数学を苦手に思う人たちだけではないようです。でもとりあえず、不思議の国のアリスと数学には深い関係があると聞いただけでも、なんだかちょっぴりわくわくしてきませんか。


文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


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