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「私の手であり、私の手ではない」という両義的身体所有感を数値化〜統合情報量による主観的感覚の強度推定〜

研究イメージ画像 (Image by Nikolai Kazakov/Shutterstock)

 「私の身体である」と感じることを身体所有感といいます。そのような感覚は当たり前に思えるかもしれませんが、偽物の手でも自分の手だと錯覚してしまうことがあります。つまり、身体所有感は非常に柔軟で変わりやすい感覚なのです。さらに近年、この錯覚のより正確な理解として、「私の手だと感じるが、私の手ではないと分かっている」という両義的な身体所有感が注目されています。


 本研究では、脳科学で用いられる統合情報理論を複数の生体信号データに適用することで、この主観的な「両義的所有感」の数値化を試みました。その結果、錯覚が起こっているとき、身体と脳の反応(身脳システム)の統合度が減少する一方で、それを補うかのように部分的な集まりの統合度が上昇しました。また、条件間の差について、質問表による主観評価値と統合度が正の相関を示しました。質問表の内容から、統合度は「私の手であり、私の手ではない」という主観的感覚を反映していました。これらの結果は、脳活動を詳細に調べなくとも、脳と身体からなる小規模なシステムを調べることで、主観的な強度をある程度推定できることを示唆しています。


 本研究は、統合情報理論を脳システム以外に適用するだけでなく、数値化することが難しい主観的感覚を、比較的小さなシステムで数値化するという新しい試みです。本研究が進展すれば、より簡易な装置を用いて、たとえば、ストレスの度合いの数値化や睡眠時の覚醒度の数値化などへの応用が期待できます。


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プレスリリース

研究代表者

筑波大学システム情報系
新里 高行 助教

長岡技術科学大学 技学研究院 情報・経営システム系
西山 雄大 准教授


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