テクノロジー・材料

量子力学的な多粒子系に流れる熱流の原理限界を導出

研究イメージ画像 (Image by Olha Yefimova/Shutterstock)

 量子力学的な多数の粒子からなる量子系へ流れる熱流の限界を、粒子数との関連から数学的に導出しました。その帰結として、粒子数が増えるにつれて熱流がどのように増大するかについての原理限界を解明し、将来実現されうる量子熱デバイスの性能限界を明らかにしました。

 近年、微小な物体の量子力学的な性質を活用した量子技術の研究が進められています。その研究分野の一つである量子熱力学においては、量子性を用いた量子熱機関や量子バッテリーなどが、理論・実験両面から研究され、その可能性が議論されてきました。とりわけ、こういったデバイスの性能は、用いる量子系のサイズを大きくする時に、それを取り巻く環境系から量子系に流れる熱流(単位時間あたりに流れる熱)をどれくらい大きくできるかによって決定されます。しかし、そのような集団的な量子系に流れる熱流の原理限界については解明されていませんでした。


 本研究では、量子系に流れる熱流の限界を求めるための新たな不等式を数学的に導出しました。これを用いて、量子系が多数の粒子から構成される場合、量子系へ流れる熱流が粒子数の3乗の関数以上に増大しないことを示しました。また、より現実的な条件設定の下で成り立つ不等式を導出し、その場合には熱流は粒子数の2乗の関数よりも速く向上しないことが分かりました。古くから知られる「超放射」というエネルギー放射の現象は、今回導出した原理限界を達成するという意味で、最も効率のよいエネルギー放射過程であることも明らかになりました。


 先行研究では、さまざまな具体例において粒子数の1乗の関数を超える非線形な熱流の増大が示唆されてきたものの、あらゆる例に適用可能な原理限界を明らかにしたのは、本研究が初めてです。本研究結果は、量子デバイスの冷却機関等への応用も可能であると考えられます。


PDF資料

プレスリリース

研究代表者

筑波大学数理物質系
都倉 康弘 教授


掲載論文

【題名】
Universal Scaling Bounds on a Quantum Heat Current
(量子熱流の普遍的なスケーリング限界)
【掲載誌】
Physical Review Letters
【DOI】
10.1103/PhysRevLett.131.090401

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