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平成26年度 島津賞
数理物質系 重川 秀実

教職員等

受賞題目:光励起フェムト秒時間分解走査トンネル顕微鏡技術の開拓

 島津科学技術振興財団は,科学技術に関する研究開発の助成および振興を図る目的で昭和55年に島津製作所の拠出資金により設立され,平成24年4月に公益財団法人に移行しました。島津賞は,主として科学計測の基礎的な研究において,近年著しい成果をあげた功労者を表彰するものです。
 年,ナノテクノロジーを利用して,次世代の新機能・超高速デバイスを創成・開発する試みが盛んです。しかし,構造の微細化が進むほど,微小領域の構造やキャリア(電子やホール)の高速な動的現象などを正確に理解し,作製・製造方法にフィードバックする必要があります。そのため,ナノメートル(1nmは10億分の1m)領域の超高速現象を構造と併せて観察・評価する計測技術が求められています。
 1981年に発明された走査トンネル顕微鏡法(STM)は,固体表面の原子の配列まで観察できる高い空間分解能を持つことから,上記計測技術の最有力候補でした。しかし,時間分解能は通常ミリ秒(1000分の1秒)程度が限界で,高速の現象を観察できませんでした。一方,光学の分野では,超短パルスレーザーを利用してフェムト秒(1000兆分の1秒)の超高速現象を観察できる光学的ポンプ・プローブ法(OPP法)が開発されました。しかし,この方法では,一般的に試料上のレーザー光が照射される領域の情報が平均化されてしまい,原子レベルの観察は不可能でした。そこで,STMの発明以来,これら2つの技術を融合し,時間と空間の両方で高い分解能を持つ計測技術の開発が進められてきましたが,様々な問題により,これまで実現できていませんでした。
 重川秀実氏は,2000年頃よりSTMとOPP法を組み合わせる研究に着手し,2010年には世界に先駆け,STMの空間分解能を保ちながら,フェムト秒の時間分解能を持つ顕微鏡を完成しました。さらに顕微鏡に電子スピンの情報を得る機能を追加し,2014年にはスピンのダイナミックスを実空間で観察することにも成功しました。本技術は,今後ナノデバイスやスピントロニクス分野の開発,ナノ物性の基礎研究などで重要な役割を果たすことが期待されています。
 上記の革新的な顕微鏡技術を開拓した業績は,科学計測およびその周辺の領域における基礎研究において著しい成果を挙げたものとして高く評価されます。

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