令和2年7月豪雨の発生要因はインド洋・太平洋間の複合効果で説明できる
2020年7月3~31日にかけ、九州や東北など日本各地で記録的な大雨による甚大な災害が発生しました。気象庁が「令和2年7月豪雨」命名したこの大雨は、日本付近に停滞した梅雨前線の影響でした。この年は梅雨明けが平年より10日ほど遅く、中国大陸上でも前線活動(メイユ前線)が活発化するなど、東アジア広域で平年の2倍前後の降水量となりました。本研究では、多雨をもたらした水蒸気の流入経路を特定するため、世界の気象・海洋観測データを解析するとともに、数値モデルを用いた気候状態の再現実験を行い、豪雨の発生要因を解明しました。
梅雨・メイユ前線活動の停滞を引き起こした第一の要因は、日本の南海上で強化された太平洋高気圧の西側を、暖かく湿った風が北上したことでした。また、このような高気圧性循環の強化・維持において、インド洋の昇温による遠隔影響が重要な役割を果たしていたことが実験的に示されました。
2020年夏の熱帯太平洋では、ラニーニャ現象に近い状況(西太平洋では高温、東太平洋では低温傾向)となっていました。このような場合、統計的には、水温の高い西太平洋上で対流(降水)が活発化して梅雨明けが早まり、それに引き続いて暑い夏となることが知られています。しかし、インド洋の昇温に伴う遠隔影響により、暖かい西太平洋上であっても高気圧(下降気流)の強化によって降水活動が抑制され、結果として梅雨明けの遅延が引き起こされていたことが明らかになりました。
インド洋の昇温は、熱帯太平洋で発生するエルニーニョ現象の最盛期から約半年後に発生することが知られています。エルニーニョ現象の発生・発達・消滅といったライフサイクルに関する予測精度は、近年急速に向上しています。今回の成果は、インド洋を介した東アジアにおける梅雨期から盛夏期にかけての季節予報の精度向上に寄与するだけでなく、それらを利活用することにより防災・減災に貢献することが期待されます。
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プレスリリース研究代表者
筑波大学生命環境系植田 宏昭 教授