生物・環境
ニワトリ精子のエネルギー代謝を休眠させ、長期冷蔵保存する技術を開発
ニワトリ精子の細胞内外からカルシウムを除去してエネルギー代謝と細胞機能を休止させ、今までより長期間、受精能力を維持できる冷蔵保存技術の開発に成功しました。このような技術は、家禽の効率的な品種改良や希少遺伝資源の保存および増殖に貢献すると期待されます。
精子の体外保存技術は、卵が大きすぎて凍結保存できない鳥類において特に重要です。冷蔵保存は簡便かつ低コストで、産業への応用性の面から注目されてきました。しかし、鳥類の精子は一般的に低温耐性が低く、ニワトリの場合、冷蔵保存すると精子の細胞膜やミトコンドリアに重篤な障害を生じ、6~24時間以内に受精能力が失われます。このように短時間で受精能力を喪失してしまう一方で、ニワトリ精子は、受精のため雌の生殖器道に入ると3週間もの間、受精能力を維持する生命力も有しています。 本研究では、何がニワトリ精子の受精能力の維持と破綻を制御しているのかを調べました。
その結果、冷蔵保存したニワトリ精子の受精能力障害は、カルシウムイオンの細胞内への流入が起因となることが分かりました。そこで細胞内外からカルシウムイオンを除去すると、精子の受精関連機能の休止が誘導され、今までよりも長期間(3日間以上)、冷蔵保存できることが分かりました。 さらにそのメカニズムを調べると、細胞内外からのカルシウム除去は、さまざまな経路で精子のエネルギー代謝ダイナミクスに働きかけて、細胞の低酸素化、低pHおよび運動性の一時休止など生理的休眠のような状態に誘導することが分かりました。
本研究成果は、カルシウムが受精機能の休止と再起動に関わる分子スイッチの一つであることを示しており、受精に際し、雌生殖器道で排卵を待たなければならない精子の生殖戦略に関わっている可能性があります。また、簡便な手法で今までより長い期間精子の冷蔵保存を可能にする技術は、養鶏のような多羽飼育産業や低コストで効率的な希少遺伝資源増殖法への応用に貢献すると期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
筑波大学 生命環境系/つくば機能植物イノベーション研究センター浅野 敦之 助教
Department of Animal Science, CALS, Cornell University, USA
Vimal Selvaraj (Professor of Integrative Physiology)
掲載論文
- 【題名】
- Arresting calcium-regulated sperm metabolic dynamics enables prolonged fertility in poultry liquid semen storage.
(カルシウム反応性エネルギー代謝の休止によるニワトリ精子の冷蔵保存性の向上) - 【掲載誌】
- Scientific Reports
- 【DOI】
- 10.1038/s41598-023-48550-2
関連リンク
生命環境系つくば機能植物イノベーション研究センター