社会・文化

TSUKUBA FUTURE #006:駅伝躍進のヒミツ「筑波メソッド」に迫る

タイトル画像

体育系 榎本 靖士 准教授


 昨年、筑波大学の女子駅伝チームは補欠選手にも事欠くギリギリの人数にもかかわらず、関東女子駅伝では大会新記録で優勝(一昨年は11位)、全日本大学女子駅伝でも9年ぶりの出場で総合3位と大躍進を果たしました。男子も着実に記録を伸ばしており、国立大学の中ではトップクラス。数年以内には箱根駅伝の予選通過が期待できるレベルに近づいています。この躍進の秘密はどこにあるのでしょうか。


 榎本さんが考えるトレーニング方法の最大の特徴は、科学的根拠に基づいた練習を行うことと、部員が自主的に考えて臨むこと。部員の中には体育専門学群以外の学生もいます。優秀な選手を多数スカウトすることは難しく、学業との両立も求められます。しかし、資金・練習時間・選手数といったリソースが限られていることを逆手に取り、画一的に管理された、いわゆる「体育会系」の練習とは異なる、科学的で効率的な練習方法を工夫しています。


 伝統的に踏襲されてきたトレーニングでも根拠のないことはしない。なんのための練習かをよく理解し、自分の体調やスケジューリングは自分で主体的に管理する。筑波大学生の強みは、そうしたことを自覚し、それを実行できることです。科学的なデータの蓄積や分析は筑波大学の得意分野。榎本さんの専門も、ランニングフォームの分析です。年に数回、選手の体力や技術に関するデータをとり、科学的に分析し、その結果をすべて部員に伝えます。コーチと部員それぞれが考え、情報を共有することで、個々人の状態や力量を把握して練習に活かします。個人のパフォーマンスが向上すれば、チーム全体も良くなっていく。駅伝人気の背景としては「タスキをつなぐ」「みんなで頑張る」といった精神論的な面もたしかにありますが、実際は区間ごとの個人競技です。しかも、後半の区間ほど、集団ではなく一人で走る機会が多くなります。そうした状況の中で、ミスをせず確実に100%の力を発揮すること。個々の選手がそれを実行してこそ、チームとしての結果がついてくるのです。


 誰かに言われるままがむしゃらに行う練習は、悩む必要もなく短期的には成果が上がるかもしれません。しかし、長く活躍する選手の多くは、自らの意思で主体的に考えた練習をしています。中には、敢えてコーチをつけない人もいるほどです。素質はもちろん重要ですが、競技に主体的に取り組む意欲を持ち、自分で考える選手が最終的には強くなるというのが、榎本さんの信念です。


 本格的なスポーツ科学は旧共産圏の東欧で始まりました。中長距離競技のトレーニングについては、チェコ、オーストラリア、ケニア、アメリカなどで、インターバルトレーニングや高地トレーニングなど先進的な方法論が生まれてきたという流れがあります。筑波大学のトレーニング方法の効果が実証できれば、新しい流れを生み出すことも夢ではありません。当面の試合で勝つというだけでなく、卒業後も世界で活躍し尊敬される選手を育てる。それも含めて榎本さんが目指す「筑波メソッド」です。



【夕方の陸上競技場】

競技種目ごとに分かれての練習が始まります。駅伝を含む中長距離ブロックでは十数名ほどの部員が集まって、その日の練習メニューの確認などが行われますが、その輪にコーチが加わることはめったにありません。やがて部員たちはそれぞれの練習を開始します。全員で同じ練習をするのではなく、選手一人ひとりが、目標に合わせて自ら練習メニューを組み立てています。練習の様子を見守り、各選手の目標や体力データなどをもとにカウンセリングをし、練習メニューを作成する手伝いをするのがコーチの役割だと、榎本さんは考えます。


練習ミーティングでは部員の自主性が尊重される

練習ミーティングでは部員の自主性が尊重される


練習の様子を見守りながら走りのペースをチェック

練習の様子を見守りながら走りのペースをチェック



データを見ながらのアドバイス
データを見ながらのアドバイス

データを見ながらのアドバイス



文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


関連リンク

・榎本 靖士

・体育系


創基151年筑波大学開学50周年記念事業