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レヴィ・フライトと呼ばれる物質の異常拡散の微視的な仕組みを数理的に解明 ~ブラウン運動とは異なる現実世界のランダムな拡散を理論化~

国立大学法人筑波大学システム情報系の金澤輝代士助教(前東京工業大学助教)は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の佐野友彦研究員、インペリアル・カレッジ・ロンドンのアンドレア・カイロリ研究員、ロンドン大学クイーン・メアリー校のアドリアン・バウレ主任講師と共同で、アクティブマター系における物質の拡散現象を理論的に研究し、レヴィ・フライトと呼ばれる異常拡散があらわれる微視的な数理構造を解明しました。

熱平衡状態の水に小さな粒子を浮かべると、その粒子はランダムに動きながら徐々に拡散するブラウン運動を示します。しかし、通常の生物系では、さまざまな生命活動が営まれている結果として、水は熱平衡系から大きくはなれた非平衡状態になります。その結果、通常のブラウン運動とは著しく異なる異常拡散が現れます。例えば、変位分布がベキ分布にしたがうレヴィ・フライトはその代表例で、経験的に多くの拡散現象を説明してきました。例えば、金融市場での暴騰・暴落や、地震のような間欠性を伴う現象も、広い意味では異常拡散、そしてレヴィ・フライトと関係があると考えられています。

しかし、それではなぜ、レヴィ・フライトが複雑な実世界を記述できるのでしょうか? レヴィ・フライトは非平衡系の拡散モデルであり、その微視的な発生機構を理論的に解明することは困難でした。そこで、本研究では、遊走微生物で構成されたアクティブマター系を題材に選び、レヴィ・フライトが実世界で現れることを微視的に説明できる理論体系を構築しました。具体的には、水中で遊走微生物(大腸菌やクラミドモナス、ボルボックスなど)が遊泳している系を考え、そこに小さな粒子を置きます。そして、微生物が作り出す流れ場を流体力学中の力学系としてモデル化しました。さらに、この力学系に対して統計物理学の分子運動論の手法を用い、レヴィ・フライトが現れることを理論的に示しました。

拡散現象はアクティブマター系に限らず、上述のようにさまざまな系で観測されます。そうした系における拡散を理解し、制御に繋げることは重要な問題となっています。本研究を通じて、異常拡散の仕組みを解き明かす枠組みを構築しました。アクティブマター系を超え、さまざまな系の異常拡散を微視的な視点から理解・制御することにつながることが期待される成果です。



(図:(a) 異常拡散の代表例であるレヴィ・フライト。まれに大きなジャンプが生じながら拡散する。 (b) レヴィ・フライトの応用例:株価や為替の価格は金融危機の時にまれな大変動を示す。この様な挙動を捉えるモデルの有力候補の1つとして、レヴィ・フライトの様な異常拡散モデルが挙げられる。)

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