テクノロジー・材料

TSUKUBA FRONTIER #042:分子を集積して材料の機能を最大限に引き出す

山本教授の写真

数理物質系
山本 洋平(やまもと ようへい)教授



2003年 大阪大学大学院理学研究科にて博士取得。
2004-2010年 科学技術振興機構ERATOおよびSORST研究員。
2010年11月 筑波大学数理物質系准教授。
2018年2月 同教授。
2022年1月 筑波大学発ベンチャー「マイキューテック株式会社」を設立。代表取締役。大学で行ってきた研究の社会実装を目指す。楽しくてワクワクする研究がモットー。ただし、最近のモットーは「研究者たるもの、全ての物事を疑え」

カタチが生み出すユニークな特性

 分子1個の大きさはナノメートルスケール。 材料として応用するには、分子を集めてもう少し大きなサイズにしなくてはなりません。条件によって、分子はさまざまな形に集積し、その形に応じて機能も異なったりします。とりわけユニークなのが球体です。化学と物理学や生物学などを組み合わせると、マイクロサイズの球体の可能性が広がります。


球体に光を閉じ込める

マイクロ球体で作成した光メモリで描画した絵画
(マイクロ球体で作成した光メモリで描画した絵画
(Materials Horizons, 2020))

 分子を集めて球体を作るというのは、難しそうに思えますが、自己組織化という現象を利用すると意外と簡単です。分子を溶かした溶液中に、分子が溶けにくい別の溶媒を加えていくと、集積した分子が析出してきます。このとき、分子によっては、角ばった結晶になりますが、球体になるものも少なくありません。
 このようにしてできたマイクロサイズの球体に光を当てると、内部で発光し、その光が球体の壁に反射して、ぐるぐる回ります。つまり球体の中に光が閉じ込められるのです。これが「ささやきの回廊」現象。セントポール大聖堂などの大きな円形ドームの中で誰かがささやくと、音の波が壁を伝って、ドームの反対側にいる人にも聞こえる現象に由来しています。これと同じことが、一つひとつのマイクロ球体の中で起こっているわけです。
 球体に閉じ込められた光は、共振して、特定の波長の鋭い光となって外に飛び出てきます。これを、小さな光源として、光メモリやセンサーなどに応用できます。光は波長によって色が異なりますから、色ごとに信号を取り出せば、多重通信なども可能です。


マイクロサイズの魅力

 2000年代に入った頃から、ナノスケールで分子構造を制御した材料開発などが注目されるようになりましたが、それより少し大きなマイクロサイズの物質には、また別の魅力があります。分子の集合体を扱いますから、やはりその形や並び方が重要です。
 マイクロサイズの物質は、通常の光学顕微鏡で十分に観察できるところが利点です。電子顕微鏡は、内部を真空にする必要があるため、乾燥すると構造が変わってしまうような分子の観察には不向きです。光学顕微鏡なら、溶液中の状態や、形、光なども観察できますから、画像としても、見ていて楽しいものです。手軽に結果が分かる、というのも研究を進める上では大事な要素です。


笑顔の異分野交流

 マイクロ球体の研究を始めたのは偶然でした。導電性高分子の集合構造を調べているうちに、球体が得られ、球体ならではの特性があることを知りました。さらに、ドイツの物理学者と共同研究をする中で、球体内での光の共振という現象が明らかになりました。物理学という、それまであまり交流のなかった分野の人との議論から、マイクロ球体と光、という新しい研究テーマが生まれたのです。
 あらゆる物質が研究の対象ですが、自分で合成できるものばかりではありません。学会や展示会などに積極的に参加して、常に新しい研究成果をチェックし、面白そうな材料を見つけると、それを合成した研究者にアプローチすることもしばしば。材料の物性計測にも、他の専門家の力を借りることがありますが、笑顔で接すれば、大抵は協力が得られるものです。一種の分業のような形ですが、それぞれ研究の目的は異なるので、新しいことが分かれば、お互いのメリットになります。学内外でこういった異分野交流を図ることも、研究の一部です。


光を超えて

 研究は、いつもうまくいくとは限りません。5年後ぐらいを見据えていくつかの種を蒔き、そのうちの一つでも花が咲けば、研究としては成功です。思いつきや妄想からスタートすることもありますが、学生とのコミュニケーションもアイデアの宝庫。思いがけない研究報告があると、刺激になります。
 ここ10年ほどは、マイクロ球体を用いた光デバイスの研究を精力的に行ってきましたが、最近は、同じマイクロ球体でも、光デバイス以外の展開を模索し始めています。その一つが、バイオ領域。生分解性ポリマーや天然のポリマーを球体にすれば、日用品や医療材料などにも使えそうです。合成ポリマーのマイクロビーズが自然界に流出して環境問題になっていることから、天然素材への切り替えのニーズは高く、社会貢献としても有望です。マーケティングや経営といった、全く違った分野にも関心があり、10年後は今とは全く違うことにチャレンジしているかもしれません。
 やったことのないことをやりたい、それが一番のモチベーションです。




筑波大学数理物質系 山本・山岸研究室

山本教授の写真

二重結合と単結合が交互につながった構造のパイ共役分子(有機低分子・高分子)や生体分子からなる超分子ナノ構造体の構築、および作製した分子集合体によるナノデバイスの作製と光電子機能・エネルギー変換に関する研究を行う。特に、分子の集合構造や配置・配向制御と機能発現に関して重点的に研究を進めている。


(URL:https://www.ims.tsukuba.ac.jp/~yamamoto_lab/


(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)

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