社会・文化

TSUKUBA FUTURE #039:古典から前衛まで?自由な日本画を極める

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芸術系 程塚 敏明 准教授


 程塚さんが初めて日本画と出合ったのは高校生の頃でした。美術科の高校では洋画や彫塑を主に勉強していましたが、先生の作品が展示されている美術館を訪れたときに、同時に開催されていた「創画展」という日本画の展覧会を覗いてみました。なんとなく考えていた典型的な日本画のイメージとは異なり、素材や表現、題材もとても自由であることに驚いたそうです。ただし当時の筑波大学には、日本画のコースはありませんでした。いずれにしろ洋画や彫塑などの美術を広く勉強したいという思いで筑波大学に入学しました。しかし、入学して最終専攻を決める前に日本画コースが新設されたことでかつての関心が復活し、そちらに進むことにしたそうです。


 それまで使ったことのない材料や技法、自由な発想で表現する日本画はとても興味深いものでした。程塚さんは、自分の経験や記憶の断片を組み合わせた心象的な風景をテーマとして制作活動を続けています。飛行機や昆虫、空など、描かれている一つひとつのモチーフは実在するものですが、全体の構図は「どこでもない場所」を意識しています。子供の頃に遊んだ自然の風景と、それが開発されて人工的な構造物に置き換わっていく様子、その喪失感とワクワク感が原体験にあるといいます。  


新しい画材や技法へのチャレンジを熱く語る。

新しい画材や技法へのチャレンジを熱く語る。


 日本画は、西洋絵画とは異なるものとして、日本で作られた美術分野です。油絵と区別するための概念ですから、厳密な定義はありませんが、特徴の一つに、貝殻や岩石など天然素材に由来する絵具を膠(にかわ)と混ぜて使うことが挙げられます。硬い材料を砕いて作る絵具にはザラザラした質感があり、同じ材料でも、粒子の大きさによって色味が変化します。また、支持体(基材)には和紙や絹が用いられます。今では人工的な材料も多用されますが、こういった画材の違いが、日本画に特有の技法を生み出してきました。程塚さんは今、「裏彩色」という支持体の裏側から絵具を染み込ませる日本画ならではの技法を追及しています。和紙だからこそできる滲みによって、空などの空間を幻想的に表現できるという特徴があります。


 程塚さんは、自らの作品を通じた研究活動の他に、江戸時代の絵画や彫刻の復元研究にも取り組んでいます。これは、2000年に筑波大学の附属図書館から、狩野派の屏風絵や掛軸などが多数発見されたことに端を発しています。日本美術史を専門とする守屋正彦教授が調べたところ、筑波大学ひいては師範学校の起源ともいえる湯島聖堂に由来するものであることが判明しました。そこで守屋教授を中心に、関東大震災で焼失した壁画や孔子像など、日本における儒教美術を復元する研究プロジェクトが、美術史・日本画・彫刻・コンピュータグラフィックスなどの研究者を結集してスタートしました。この中で程塚さんが担当したのが、壁画と孔子像(彫刻)の彩色復元です。孔子像は、残されていた写真と資料をもとに、彫塑の柴田良貴教授がブロンズ像を制作し、それをもとに程塚さんが彩色復元することになったのです。彩色復元する像は、ブロンズ像から漆と布で型取りしたもの(乾漆像)です。彩色は失敗が許されない上に、乾漆という素材や立体造形への彩色という初めての経験は、画家としてだけでなく、研究者としても刺激的な経験でした。残されている数少ない資料をもとに、絵具の素材選びや衣装に描かれている模様の解析などの準備作業から始め、試行錯誤を繰り返しながらの2年間を経て、このたびようやく完成、公開に漕ぎ着けました。この孔子像を中心に、復元研究の成果を公開する特別展が附属図書館や大学会館で開催されることになったのです。筑波大学のルーツを復元するという今回の作業は、学内のさまざまな芸術分野が協働することで初めて成し遂げられた研究成果だといえるでしょう。程塚さんはさらに、等身大の孔子椅像の彩色復元にも挑戦する予定です。


模様を描いた絵具ののり

孔子像を彩色復元するにあたっては、乾漆の切れ端(左手に持っているもの)で絵具ののりを確かめ、
曲面の細部は像を抱きかかえるようにして模様を描いた。


 程塚さんは、総合大学の中で制作・教育・研究を続けていく上で、研究対象としての芸術、社会の中での芸術や芸術家の位置づけを常に意識しています。芸術作品は、目に見える形で発表しやすい反面、定量的な評価、はっきりした結果が出にくいものです。そこで、出来上がった作品は展覧会などの場で必ず発表することを自らに課し、丁寧に伝えるよう心がけています。仲間内の批評からは得られない共感や率直な反応が勉強にもなります。作品を作り上げるプロセスは極めて内面的な活動ですが、このようなコミュニケーションまでを含めたすべてが創作だと、程塚さんは語ります。日常の中から印象的な風景を切り取るアンテナ、新しい技法や表現へのチャレンジ、古典作品から得るインスピレーション、復元作業から学ぶ画材の意味、現代の日本画というフィールドで、程塚さんの創作意欲は燃え続けています。


文責:広報室 サイエンスコミュニケーター


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