テクノロジー・材料

TSUKUBA FRONTIER #054:多くの可能性を秘めた「ホウ化水素」

近藤 剛弘 教授の写真

数理物質系
近藤 剛弘(こんどう たかひろ)教授

PROFILE

筑波大学大学院 工学研究科 物理工学専攻で博士(工学)を取得後、理化学研究所 基礎科学研究員、協力研究員を経て筑波大学に着任。現在、東北大学 材料科学高等研究所 特任教授、物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究センター 主席招聘研究員、および公益社団法人日本表面真空学会 フェローでもある。

社会に貢献できる材料を目指して

「ホウ化水素」。聞き慣れないかもしれませんが、エネルギー分野など、これからの社会で欠かせない役割を担う可能性を秘めた化合物です。このホウ化水素を世界に先駆けて開発しました。
その実用化を見据えた研究拠点「ホウ化水素研究センター」も新たに設立され、そのセンター長としても、さまざまな研究活動を率いています。

期待の水素貯蔵材料「ホウ化水素」

自動化技術と法

 ホウ素と水素からなる物質には、両者の比率や結合状態に応じてさまざまなものがあります。その中で、2017年に新たに開発したのが、ホウ素原子と水素原子が1対1の割合で結合した「ホウ化水素」。見た目は粉末のようですが、電子顕微鏡で観察すると、厚みが原子1〜2層というナノサイズのシートで、六角形状に並んだホウ素原子の間に水素原子が規則的に配置されるという、ちょっと変わった構造をしています。これに熱を加えると水素だけが放出されることから、ホウ化水素は、水素を貯めておき、必要な時に取り出すことができる物質として期待されています。

 水素は、燃料電池など次世代のクリーンなエネルギー源として注目されていますが、軽くて爆発性のある気体のため、運搬や貯蔵が難しいという課題があります。これを解決し水素活用を促進すべく、ホウ化水素の詳細な構造と物性やその制御方法を研究しています。

中性子遮蔽材料としての展開

 研究を進めていく中で、ホウ化水素の意外なポテンシャルも見つかりました。その一つが中性子遮蔽性です。放射線の一種である中性子線は、人体だけでなく、デジタルデータや電子機器などにも影響を及ぼします。ホウ素と水素にはいずれも中性子を吸収する性質があることから、分厚いコンクリートや鉄の壁がなくても中性子線を遮蔽できると考えられ、データ保護や宇宙船・宇宙服の材料など、多くの用途への展開が見込まれます。

 さらには新しい核融合燃料への活用も検討されています。強力なレーザーを軽水素(プロトン)とホウ素11(同位体)を瞬間的に衝突させて核融合反応を起こすという方法です。ホウ素と水素のみで構成されるホウ化水素は、密度が高く、両元素の衝突が生じやすい点で、燃料として有利です。中性子を出さない、より安全性の高い核融合技術として、近年、筑波大としても取り組みを強化しているテーマです。

さらに新しい機能を求めて

 また、ホウ化水素には抗菌作用や抗ウイルス作用があることも分かってきました。ホウ化水素シートをガラスにコーティングしたものに大腸菌や新型コロナウイルスを接触させると、10分程度で検出できないレベルにまで減少します。具体的な使い方についてはまだまだ検討すべき課題が残っていますが、身近な材料としてホウ化水素が知られるようになる日が来るかもしれません。

 2021年には、ホウ素原子と硫黄原子で構成される「硫化ホウ素シート」の作成にも、世界に先駆けて成功しました。理論的には熱電特性や水素貯蔵特性があることが予測されていましたが、実際に得られたシートでは、予測されていなかった非常に優れた水電解の電極触媒性能や光触媒性能などが見つかっています。

社会に貢献する材料の開発を

 ホウ化水素の可能性が広がるにつれ、扱うテーマも多様化し、実験設備の不足も気になるところですが、研究を進める力になっているのが、研究室に所属する30名近い学生です。学生たちとのディスカッションはとても楽しく、どんなに多忙でもこのための時間は惜しみません。一人ひとりの個性や能力を生かしてそれぞれにレベルアップできるよう、時には小言も言いつつ、全員に目配りをしています。

 ホウ素自体は研究対象としてそれほどメジャーではありませんが、化合物の中に含まれると特異な性質を発現させることがあり、侮れない元素です。最初は炭素系の触媒開発を行うつもりが、さまざまな研究プロジェクトに参加する中で多くの研究者の知見も得て、何か新しいことをしようと、ホウ素の研究に乗り出しました。そうして開発したホウ化水素は産業界にも大きな反響を呼びました。研究コミュニティの規模は決して大きくはないものの、企業との共同研究にもつながり、実用化への道も見えてきています。究極の目標は、実用的で社会に貢献できる材料の開発です。

筑波大学数理物質系 近藤・大木研究室

朴教授の写真

 ホウ素と水素で構成されるホウ化水素ナノシートやホウ素と硫黄で構成される硫化ホウ素ナノシートの創出に世界で初めて成功。オリジナリティのあるワクワクする研究を軸に、新物質、新材料、新技術、新概念の開拓を遂行し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目的として研究活動を実施している。

(URL: https://www.ims.tsukuba.ac.jp/~kondo_lab/

(文責:広報局 サイエンスコミュニケーター)

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