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熊本地震で被災した熊本県御船町の美術品の保全活動について ~御船町長より芸術系長に対して感謝状が贈呈されました~

平成28年4月14日に発生した熊本地震により,熊本県御船町の故田中憲一作品群(被災熊本県御船町所蔵(被災時は個人蔵))が被災した状況の中,御船町からの要請により,本学芸術系の保存科学研究室(代表:芸術系松井敏也教授)の教員や学生が中心となって,絵画修復専門家の指導も受けながら被災美術品の支援活動を行ってきました。

このたび,本格的な絵画修復が必要な数点を除き,修復が終了し御船町に返却されることとなったことから,平成30年2月19日(月),これらの支援活動に対して,御船町長から芸術系長に感謝状が贈呈されました。

今後も,芸術分野を持つ総合大学ならではの知と技術やこれまで行ってきた支援活動の経験を基に,被災美術品の支援活動を行っていきます。

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((左)藤木御船町長,(中央)松井芸術系教授,(右)山中芸術系長)

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(御船町長からの感謝状)

藤木正幸 御船町長からのコメント

「このたびは,熊本地震において被災した本町の田中憲一先生の作品の絵画修復について,大変お世話になりました。貴学芸術系の松井先生や学生など,たくさんの方々のお力添えで"絵"という命を救うことができました。御船町として,田中先生の"絵"を未来の子供たちに伝えていく責務があります。修復していただいたことに感謝を申し上げ,今後も修復いただいた"絵"を大事にしていきたいと思っています。」

支援活動に至るまでの経緯

熊本地震により,御船町の故田中憲一作品群が被災し,大作の油彩画(約70点)と小品(約30点)が瓦礫の下敷きとなった。その後,地域の有志により倒壊した家屋から救出され,御船町内の建物に保管された。しかしながら,作品群は家屋の倒壊による物理的ダメージの他に,救出までの間に雨水や汚泥に曝され,カビや彩色層,支持体の脆弱化が進行している状況であった。

このような状況の中で,保存科学研究室における東日本大震災での,被災した博物館資料等の応急処置や安定化処置などのレスキュー活動を知った熊本県の美術関係者から支援の打診があった。

具体的な支援活動

御船町におけるレスキュー活動

作品の状態観察を実施した結果,既に黒カビの繁殖が複数の作品に渡って確認されていた。そのため,作品の劣化を抑制し,なおかつレスキューチームの身体への影響を軽減するため,燻蒸処理を現地にて実施した。作品のコンディションチェック後に脱酸素剤とハイガスバリヤフィルムを用いた脱酸素梱包処置を実施した。これは,安定した収蔵環境および場所の確保の見通しが立たなかったことと,燻蒸後のカビの再発生が懸念されたこと,作品の修復や応急的な処置に要する期間が一年を超えると判断されたことによるものです。この処理により作品は低酸素の状態で保たれ,カビの繁殖,虫などによる劣化を数年に渡って抑制することが可能となった。

その後,応急処置や修復処置を優先して行なう必要があると判断された作品48点を,平成28年10月に本学へ移送し,それらの作業のための安定化処置を取ることになった。

※御船町では,平成28年10月に「田中憲一作品を救う会」によるクラウドファンディング(支援総額:616,000円)が実施され,それらはレスキュー活動の一部に使われた。

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(搬入された絵画)

本学における安定化処理

作品の表面の泥や塵埃の除去,絵画表面に和紙による表打ち,部分的に剥落止めを行った。これらの作業の後,再度ハイガスバリヤフィルムを用い,作品を窒素封入した。この状態で今後の修復または応急的処置まで保つことになった。

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(表打ち作業の様子)

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(背面の塵埃除去の様子)

支援活動を通じて

災害時には大学が支援の拠点になることが多いが,その中で何ができ,何ができないのかを把握し,芸術分野を持つ総合大学ならではの知と技術の集約によって,被災地が求める支援や協力を行うことができた。 学生は大学での学びや研究において得た知識,技術を被災現場または被災資料に対して適用する際に,どのような工夫や応用が必要になるかなどを体験することができた。さらに管理者,所有者,地域住民などと協働することで,研究や技術だけではなく,信頼関係の構築,経費の工面等,現場力の必要性を感じ取ることができた。

これまでの支援活動の実績

保存科学研究室では,東日本大震災にて被災した博物館や収蔵資料,歴史資料,古文書,掛け軸などの応急処置や安定化処置,ミュージアム再興事業などに協力してきた。現在は岩手県山田町と宮城県石巻市で活動中。

【茨城県】鹿嶋市,結城市,取手市,常陸太田市,常陸大宮市,水戸市,県立博物館施設
【宮城県】石巻市,県立博物館施設
【岩手県】大槌町,山田町   など。

保存科学研究室の紹介

保存科学は遺跡や文化財の劣化や損傷を未然に防ぐことを目的とした予防的保存研究や,修復を目的とした修復材料,修復技術の研究を行っており,今はカンボジアアンコール遺跡の浮き彫りの修復や,明治期の煉瓦の保存,博物館などの展示環境などの研究を行っている。

問い合わせ先

松井 敏也(まつい としや)
筑波大学 芸術系 教授

関連リンク

保存科学研究室


創基151年筑波大学開学50周年記念事業
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