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【世界初】難治性脳腫瘍(初発膠芽腫)に対する加速器を使った次世代治療BNCTの医師主導治験を開始(※膠芽腫の方で、放射線治療未実施の方対象)
筑波大学は、この度、未だに治療法が確立できていない難治性の悪性脳腫瘍(膠芽腫(こうがしゅ))を対象に、加速器を用いて中性子を発生させるホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy。以下「BNCT」という。)※による医師主導治験を開始する態勢ができ、ここに発表いたします。この治験は、初発膠芽腫(しょはつこうがしゅ)の患者さんを対象としたBNCTとして世界初の治験となります。
膠芽腫(こうがしゅ)は、5年生存率が10%程度と極めて低いがんであり、手術と放射線・化学療法の組み合わせでも多くが再発し、治療が困難とされています。今回の治験では、すべてを取り切れないような難しい部位に悪性腫瘍がある患者さんを対象に、BNCTの安全性及び忍容性を検証することで、高い有効性が期待される治療法の開発を目指しています。
この治験は、新型高出力中性子線源を用いたつくば型加速器BNCT装置iBNCT001とがん細胞に選択的に集まる性質をもつBNCT用ホウ素薬剤の治験薬SPM-011(ステラファーマ株式会社製)を用いて実施しています。この装置を用いた世界初の取り組みは、これまで難治だったがんに対する強力な新治療法となることが期待されます。
今回のプロジェクトのリーダー、筑波大学附属病院陽子線治療センター部長の櫻井 英幸 教授は、膠芽腫に対してのBNCTの強みを次のように説明しました。
このプロジェクトは一言で言いますと、決して直すのが容易でないような、難治がんへの挑戦というようなふうに捉えている。
今回の対象としましたこの膠芽腫について、これは人間にできるがんの中では極めて悪性のもので、がん細胞を選択的に狙い撃ちして、しかも非常に強い効果のあるような治療を提供しない限り、なかなか治療効果が上がらないと考えられる。今回我々が行っていますBNCTは、まさにそういった面でメカニズムが優れた治療です。
(※) BNCT:ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy)
BNCTはがんに対する粒子線治療の一種です。X線や陽子線などを使う従来の放射線治療ではビームの特性によって、がん細胞の周囲の正常細胞も部分的に障害してしまう可能性があることが課題ですが、BNCTは中性子と反応しやすいホウ素をがん細胞に取り込ませることで、中性子線による細胞障害効果をがん細胞だけに集中することができる理想的な治療法です。① ホウ素入り薬剤を投入し② 中性子を照射し、③ 中性子とホウ素10同位体が核反応し、④ 悪性腫瘍を破壊するというプロセスを踏みます。具体的な利点として、
- ホウ素の取り込まれた細胞に対して強力な治療効果が期待できるため、理論上、ピンポイントで細胞レベルの重粒子線治療ができること。
- 1回(約30分)の照射で完了すること。
- これまで難治だったがん(浸潤がん、多発がん、各種再発がん)に対する強力な新治療法として期待できること。
等が挙げられます。
BNCTのアイデア自体は古く、中性子発見直後の1930年代に提唱されています。がんに特異的に取り込まれるホウ素薬剤も日本で開発され、難治性のがんに対する次世代治療として期待が高まっています。