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大学案内

学長室
2020年度学長所信表明 あるべき未来のために

学長 永田恭介

学長 永田恭介

我々は、現在の単純な延長線上に未来が描けない状況にいます。VUCAの時代とも言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったものです。そして我々は激動するグローバル社会の中にあります。そこは境界のない社会です。国や地域、あるいは個々のコミュニティの境界は、それらが成立した時の概念を持ちながらも、明らかに互いに境界を越えた活動を強いられています。今まさに、これらを象徴するような出来事が進行しています。驚異的なスピードで世界中に拡がっている新型コロナウイルスのことです。このウイルスは中国湖北省武漢市から瞬く間に世界中に蔓延し、約2か月で南極大陸を除く5大陸に感染が拡がりました。日本国内でも市中感染が確認され、全国的に休校、各種イベントの中止などが余儀なくされています。それだけではなく、この感染症は株価にも影響を与え、グローバル経済は下方に向かっています。市井では、SNSの風評に煽られて店頭からトイレットペーパーがなくなるという事態まで起きてしまいました。予測できないのは、感染症だけではありません。世界秩序の変動と混迷の行方も不確実ですし、人間と環境と産業を急速に改変していくテクノロジーがもたらす恩恵の陰に潜む複雑で曖昧な負の影響も深刻な問題です。

予測できない未来の一方で、高い確度で予測できる未来もあります。その一例が、人口動態です。我が国の人口は2010年以降、減少の一途をたどっています。政府の統計は、2050年には1億人を下回り、高齢化率が40%に近づくことを示しています。労働人口が減少することに伴い、国内市場が縮小し、税収が減少し、経済成長が難しくなります。高齢化が進む影響で社会保障費が増大するのと並行して少子化により人口ピラミッドが逆転するため、社会保障制度の維持も危ぶまれます。出生率を飛躍的に上げて自然減に歯止めをかけるか、労働力を国境を越えて調達するか、あるいはこれらを解決できる新たなイノベーション創出がない限り、これは避けられない未来です。

我々は、これら2つの未来に対して十分に備えておかなければなりません。予測できない未来に対しては、何が起こっても困らない備えが必要です。あらゆる可能性に備えるには研究と教育の多様性が不可欠です。特に、今は存在しない職業、通信・交通手段、インフラなどに依拠した社会で生きていくことになる次世代を担う者たちに、何を伝えていくべきかを真剣に考え直す必要があります。予測できる(避けられない)未来に対しては、危機感を持ってそれを直視し、拙速ではなく、迅速で具体的な対応策を考え、実行していく必要があります。

その際に思い起こしたいのがアラン・ケイの名言です。米国の著名な計算機科学者で、パーソナル・コンピュータの父とも言われるアラン・ケイは、研究内容に対する将来予測を求められた際に、「未来を予測する最善の方法は、それを創り出すことだ」(The best way to predict the future is to inventit.)と答えています。先手を打って自分たちが望む「あるべき未来」を描き、自らそれを創り出すことができれば、少なくとも部分的には未来を予測できたことになるという発想の転換は見事です。それによってあらゆる未来が予測できるわけではありませんし、避けられない未来をすべて回避できるわけでもありませんが、いかんともしがたい2つの未来に対して挑戦ができることをケイは示唆しています。

そこで問われるのが、本学が望む「あるべき未来」とは何かです。本学の出自と歩みを踏まえると、「真の総合大学」という未来が描けると考えています。本学は「学際性」と「国際性」を強みとして建学された新構想大学ですが、このうち「学際性」について、2016年の所信の中で次のように述べました。

『ここで述べている「学際性」の究極的な意味は、新たな学問分野の創成ということです。基礎、応用、あるいは社会還元型研究という範疇のどれかを指しているのではありません。現在それぞれが確立したディシプリンである様々な学問分野も、その発生以前の種々の学問分野が統合・融合および分離を繰り返して成立してきたものです。たとえば、物理学は、古代、自然の働きを解明する哲学として始まり、天文学や力学といった分野を取り込み、進んできました。17世紀、宇宙の全ての運動を数学的原理で説明しようとしたのはニュートンでした。その後も幾つかのパラダイム・シフトを経験しながら物理学は大きな発展を遂げてきています。そして、こうした変遷の中心は大学でした。こうした新しい学問分野や領域を積極的に産む場として本学を再定義しようということです。』

一般に、単一の学部・研究科で構成される単科大学に対し、様々な学問分野の学部・研究科を擁し、幅広い教育と研究を行う大学が「総合大学」と呼ばれます。そういう意味では、人文学、社会科学、理学、工学、農学、医学等に加え、国立大学としては希少な体育学、芸術学、図書館情報学などの分野を持つ本学は外形的には「総合大学」だと言えます。しかし、多くの「総合大学」では、学部・研究科間の敷居が高く一大学の中に複数の学問分野が並存しているに過ぎませんが、開学時に国内では他に類を見ない教・教分離(教育組織と教員組織の分離)システムを採用した本学は、複数の分野が連携した学際的な研究・教育を積極的に進めてきた点に特長があります。さらにその先に本学が望む未来として、学際的な協働の上に新たな学問分野を創成する大学を「真の総合大学」と定義し、以下、その輪郭を描きます。

未来に向けた研究強化

サイバニクス、感性認知脳科学、ヒューマンバイオロジー、統合睡眠医科学、エンパワーメント情報学、ヒューマニクスなどの新たな研究分野を創出してきた実績を有する本学が、学問分野間の学際的な協働をこれまで以上に実り多いものとするためには、2つの前提を満たす必要があります。第一に、人と社会、自然と環境のあらゆる側面を徹底的に探求する多様な基礎研究の長期的な蓄積です。VUCAへの備えという観点から言えば、不要な学問分野はありませんから、大学として全力をあげて学問分野の多様性を維持していく必要があります。その際、Campus-in-Campus、Campus-with-Campusなどの枠組みを最大限に活用したトランスボーダー戦略、すなわち大学間連携、筑波研究学園都市の研究機関との連携、産学の連携を強化することにより、可能な限り学問分野の多様性と研究水準を高めていくことができます。

第二に、協働する個々の分野が卓越していることです。そのためには本学の研究力を強化し、それを次代に引き継いでいかなければなりません。その一助として、これまで国際頭脳循環に資する優れた成果を上げてきた国際テニュアトラック制度と海外教育研究ユニット招致制度を改良し、拡充していきます。また、研究センターを級別(R1:世界級研究拠点、R2:全国級研究拠点、R3:重点育成研究拠点、R4:育成研究拠点)に分類し、5年ごとの評価に応じて改廃し、級に応じた支援を行う研究循環システムも引き続き運用していきます。R1の中で特に高い研究成果を発揮した研究センターについては、今年度から導入される「世界展開研究拠点形成機構」を通じて、外国人研究者の採用や当該センター事務組織の国際化の面で全学的なバックアップを行っていきます。

学問分野の多様性と卓越性を高めることと並行して、新たな研究分野、学問分野のインキュベーターとなるような全学的な仕組みを推進したいと考えています。研究大学強化促進事業に採択された際に展開した研究インキュベーターとしての学術センターシステムからは、科研費新学術領域研究に連続して採択されている日本最高峰の西アジア研究拠点「西アジア文明研究センター」、新学術領域研究の代表者を生み、またJSTERATOプログラムを推進している「微生物サスティナビリティ研究センター」や、ノーベル賞受賞者である朝永振一郎博士の研究を継ぐ「宇宙史研究センター」などの新たな研究分野を切り拓く研究拠点が生み出されてきました。このシステムを活用して、真の総合大学に相応しい異次元レベルの学際的協働を可能にしていきたいと考えています。例えば、計算科学、先端計測科学、感性認知脳科学、医学、情報工学などの知を統合することにより人の感性・情動を解明する新分野や、人文社会科学、人間科学、IoH(Internet of Human)、睡眠科学、スポーツ、アートなどを融合させることにより、個人の情動が社会全体の行動を生み出す機構を解明する新分野などが生まれてくることを期待しています。こうした新分野は、多様化、複雑化する地球規模課題に対して斬新な解決策を生み出す原動力となるはずです。

未来に向けた教育革新

社会の変化は急激です。米国では、2011年度に小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろうという予測が話題になりました。10年前にはスマートフォンの世帯保有率が1割にも達しておらず、そもそも13年前にはiPhoneもアンドロイドも存在していませんでした。今や大半の人がスマートフォンを保有しています。今の小学生たちが大学を卒業する頃には、今は存在しない職業、通信手段などが主流になっていることでしょう。常識や倫理観すら変化していく可能性もあります。

グローバル化やデジタルトランスフォーメーションが予想を超えて進む時代にあっては、自ら真に人が行うべき仕事を見出し、それを遂行できる能力を持つ人材が求められます。そうだとすれば、教員が知っていることを単に伝授する教育モデルには限界があります。伝授型に代わる教育モデルとして、アクティブラーニングやPBL(Problem /Project Based Learning)が注目されていますが、これらに共通するのは「(教員が)教える」から「(学生が自ら)学ぶ」へのパラダイム・シフトです。「教える」パラダイムは教員中心に科目を積み上げていく伝授型モデルで、伝統的なコースワークの中で成果を上げてきました。一方、「学ぶ」パラダイムは、実は我が国の大学では全く新しいものではなく、卒業研究という形で古くから根付いてきたモデルです。教員の皆さんはよくご存知のとおり、卒業研究では、学生自身が正解のない課題を設定し、課題に取り組むために必要な知識や情報を自ら収集した上で、自分なりの仮説を立てて検証する作業を繰り返しながら独自の結論を導き、それを文章などとして表現していきます。その過程で、指導教員は、まず学生の個性や学問上の得意などを見抜いたうえで、課題設定、情報収集、仮説検証、文章化の各段階で助言を与えたり、適切な情報源(書物や研究者)を紹介したりすることで、ファシリテータ(支援者)の役割を果たしています。

VUCAの時代を生きる世代を育てる高等教育機関として「教える」から「学ぶ」へのパラダイム・シフトは不可欠だと言えますが、その際、私たちが培ってきた日本型卒業研究のノウハウを最大限に活用して「学ぶ」パラダイムを強化することを考えています。現状では、学生は学士課程の最後の仕上げとして卒業研究に取り組んでいますが、同様な主体的学びを初年次から経験することにより、在学中の学びがより主体的で能動的なものとなります。例えば、介護に興味のある学生に対して、看護学のほか社会科学や政策学、心理学を専門とする教員と議論を繰り返すとともに、介護テクノロジーに関する知見を理解し、リハビリテーション現場でインターンシップを行うことを考えてみてください。この学生は、介護の現場実践者のみならず、介護政策の立案者や実施者(行政や政治に関わる者)、あるいは新たな介護テクノロジーを生み出す者などを目指す選択ができ、その先の学びがより実質的なものになるのではないでしょうか。あるいは、素粒子の成り立ちに興味を持つ学生であれば、数学、物理学、化学を専門とする教員と宇宙と物質の誕生について学び、専門家との議論を行い、理論的な能力を高めさせ、それに関する先端計測方法等を海外実験施設のインターンシップにより学ばせることができます。確立された方法に付きものの限界を凌駕し、このようなチュートリアルシステムを進める原動力は教員の全人的な力です。

同様のパラダイム・シフトは大学院教育でも必要です。その一助として、卓越大学院に採択されたヒューマニクス学位プログラムで導入された完全ダブルメンター制とリバースメンター制に期待しています。これらがうまく機能すれば、あらゆる分野への導入が可能となり、学生の主体的研究活動から新たな学際分野が創出される可能性も生まれます。また、学術院の壁を越えて柔軟にダブルメンターやリバースメンターを運用する意味でも、将来的には大学院を一研究科に改組することにより、真の総合大学にふさわしい深さと広さを兼ね備えた高度人材を育成する体制が整えられるものと考えています。

学生の規模については、文部科学省との徹底対話の中で、学士課程については2028年度に収容定員の5%を外国人・外国出身者とした上で、第5期中期目標・計画期間中にはこれを10%まで増加させることにより、大学全体の規模を現状維持する方向性を示しています。大学院入学者については、外国人・外国出身者がすでに収容定員の20%を超えていますが、分野の特性も踏まえながら社会人枠を加えて全学平均で25%としつつ、新分野を挑戦的に開拓し研究力を強化していくために、学生定員の増加を図る方向性を示しています。これを実現するためには、過去にも述べてきた施策の展開が待ったなしの状況です。すなわち、質の高い外国人学生のリクルートと選抜に関する改革が必須です。そのために、教育、学生、国際担当が協働するユニットを設置することにいたしました。また、外国人学生が日本語による教育コンテンツを活用したり、日本国内での就職や日本企業に就職しやすくしたりする改善に向けて、外国人に対する日本語、日本事情に関する教育を充実させることも極めて重要であり、グローバルコミュニケーション教育センター(CEGLOC)の改革を図らなければなりません。

社会との連携の未来

本学は、大学発ベンチャーの累積起業数が東京大学、京都大学に次いで国内第3位であり、大学発ベンチャーからのストックオプションを受け入れる規則を整備し、すでに受入実績もあります。その先に本学が望む未来の産学連携の姿として、ベンチャーエコシステムを整備し、その循環を進めることを計画し、一部実行し始めています。ベンチャーエコシステムとは、
    ①教員、学士課程学生・大学院生を対象にしたアントレプレナーシップ教育
  → ②大学発ベンチャーの起業
  → ③スピンアウトレイズ(資金調達)による企業の成長
  → ④ビジネスの拡大による利益の獲得
  → ⑤大学への資金(寄附金、有価証券、共同研究費)のリターン
をサイクルとし、⑤の資金を①〜④に還元することにより、循環を加速させる仕組みです。

このベンチャーエコシステムの起点となる①についてですが、現行の本学のアントレプレナーシップ教育プログラムには、本学の教員や学士課程学生・大学院生のみならず、筑波研究学園都市の諸機関の研究者や技術者も多数参加しています。この開かれたアントレプレナーシップ教育を今後さらに拡充するとともに、これが②に繋がるように支援していきます。その際、筑波研究学園都市という立地を最大限に活用すべきです。筑波研究学園都市はすでに各種プロジェクトの実証実験場として活用されていますが、茨城県やつくば市の協力を得ながら、実証実験を超えて社会実装にチャレンジでき、トライアンドエラーも許容するイノベーションの聖地にしたいと考えています。

③については、本学発ベンチャーが2018年度も2019年度も約50億円を獲得しています。今後、③をさらに増加させ、エコシステム全体の流れを加速したいと考えています。そのためには、国内だけでなく海外での資金調達を推進する必要があります。米国におけるベンチャーへの投資額は9兆円を超えていますが、日本においては2,000億円弱(米国の1/50)です。そこで、スタートアップ支援組織や、大企業、ベンチャーキャピタル(VC)などが集積するシリコンバレーのThe Laboratory for Intellectual Innovation(LII)とボストン(ケンブリッジエリア)のCambridge Innovation Center(CIC)にオフィスを設置しました。これらのオフィスでは、現地の企業や金融関係者とのネットワークを構築し、海外マーケットにおけるニーズ探索を進めるとともに、オフィスに本学のアントレプレナーシップ教育を受講した教員、学士課程学生・大学院生、大学発ベンチャーを派遣して、海外マーケットにおけるニーズ探索、海外の企業やVCからの投資の獲得などの実践的取組を支援します。また、既存の海外教育研究拠点(12拠点)の活用も考えています。加えて、世界のイノベーション都市とそこで活躍する大学、たとえば、グルノーブル市とグルノーブル大学、ボーフム市とボーフム大学などとの協働を推進することも効果的であると考えています。これらを支えるために、研究、産学連携、国際の各担当が協働するユニットの設置も視野に入れています。

より自由な教育研究を支える資金の調達の観点からは、寄附金などの余裕金の増大とその積極的な運用が必要です。そのためには、本学が近々開学50周年/創基151周年を迎えることを契機として、本学の国内外のステークホルダーとの繋がりを強化しなければなりません。また、基礎研究に根ざしたシーズドリブン型の産学共同研究を着実に伸ばしつつ、産業界の課題を解決できるニーズドリブン型の産学共同研究を展開していくような工夫も必要です。また、大学における基礎研究に対して、企業などからの投資・寄附をいかに増加させていくかということです。その際、寄附文化の進んでいる米国の状況を理解しておくことが重要です。産学連携研究が抜きん出ている米国における研究動機は、決してエジソン型研究(現実の具体的な問題解決だけが重要な動機となる研究)ではないということです。あくまでもボーア型研究(基礎原理の追求が重要な動機となる研究)が基本であり、パスツール型研究(基礎原理の追求とともに現実の具体的な問題解決が重要な動機となる研究)も同様に重視されているという点です。こうした状況でも大学の研究には寄附が入ってきています。米国あるいは英国のトップスクールから発出される論文の被引用数は、「産学共著論文>>国際共著論文>国内共著論文>学内共著論文>単著論文」の順なのです。現在、本学は日本においては東京大学、京都大学など数大学とともに、この順を示している大学の一つです。被引用数の高い産学共著論文は特許と同様に、社会のニーズに関わる課題が解決されたことの指標の一つと考えられます。今後、このような観点から、投資・寄附を増加させる施策も必要です。

附属病院は、県内唯一の特定機能病院であり、高度医療の実践、医療技術の開発などの使命に加えて、地域医療にも責務があります。陽子線治療などの高度医療は社会が期待する先進性を持つとともに、病院経営の基盤ともなりますので、しっかり計画的に進めなければなりません。基礎・応用的な研究成果を治療に活かすトランスレーションについては、つくば臨床医学研究開発機構(T-CReDO)が整備され、その機能が十分に発揮されることが期待されています。次代の臨床を担う若手の医師が附属病院の活性化には必須です。若手医師の育成においては、診療能力に磨きをかけるとともに、研究型の総合大学の附属病院であることを活かした研究能力の涵養も重要なポイントです。

本学附属学校群の3つの拠点(先導的教育拠点、教師教育拠点、国際教育拠点)構想は、先進的なインクルーシブ教育の実践を含めて、順調に進んでいます。文部科学省との徹底対話の中では、本学附属学校と近隣国立大学附属学校との連携を強化し、教育実践面ならびに管理運営面における総体としての機能強化を図っていく方向性を示しています。各附属学校の特性を維持しながら、全国の国立大学附属学校を先導する独立性を持ったマネジメント改革を図っていかなければなりません。

大学の未来に資するマネジメント

本学は、国内の有力大学と比して研究者の年齢構成が高い状態にあります。学問分野の多様性と卓越性を高め、世界に伍していくためには、国際的に活躍できる若手研究者を積極的かつ計画的に採用していく必要があります。第3期中期目標・計画期間に、助教200人相当の人事ポイントを戦略的に配分し、若手・女性・外国人の採用を中心にした教員人事を進めてきました。これにより、データサイエンスを全学必修科目とした共通科目「情報」の4単位化に必要な教員の増員や、人工知能科学センターの設置、次世代スマートシティ研究等の新しい研究分野の開拓等が進められてきました。第4期以降は、新たな戦略的人事ポイント配分方式として考案した「循環型方式」を導入します。これにより、国際的に活躍できる若手教員を積極的かつ大規模に採用し、多様な分野における本学の強みをさらに強化し、将来に繋げていきたいと考えています。

多様な構成員が個々人の資質・能力に応じて活躍できるよう、特に事務系職員の在り方を見直す必要があります。具体的には、大学のマネジメントを担うジェネラリスト職員とともに、特性を持ったエキスパート職員あるいはURAや産学連携コーディネーターなどの専門性を有する人材を、それぞれの特性に応じて確保・育成し、事務系職員の機能・能力の高度化を図ります。

財務については、財源の多様化が要となります。運営費交付金の増額は、社会保障費が増大する中では期待ができません。やはり、外部資金の獲得の推進は重要です。また、持てる資産、特に土地(東京キャンパスなども含む)の活用についても考えなければなりません。さらに検討すべき事項として授業料の問題があります。国立大学法人の授業料の標準額は文部科学省によって定められており、現行のルールでは大学の判断により最大20%まで増減が認められています。今後、18歳人口の減少に伴い社会人学生や外国人学生が増えていった場合の指導に要するコストの違い、学問分野ごとのコストの違い、あるいは優秀な学生への経済支援、海外武者修行の全学生への拡張支援など、様々な角度から費用や効果も考慮して、慎重に検討する必要があります。

こうした経営上の課題を扱う学長直轄の独立部局として、「大学経営推進局」(仮称)を設置したいと考えています。大学経営推進局は、大学の将来ビジョンを踏まえ、中長期的な大学経営戦略の策定を行い(P)、戦略の中の計画の具現化のために執行する部局への提案・指示等を行い(D)、計画の進捗を管理する(C)とともに大学経営戦略や計画の改善等を行う(A)、というPDCAサイクルを継続的に実施することで、持続的かつ発展的な大学経営及び大学の基盤強化を実現することをミッションとします。教職協働型の組織とし、マーケティング、CRM(顧客関係管理)、財務分析、大学情報の発信などに加えて、大学を取り巻く情報の一元的な管理と分析によりエビデンスに基づいた意思決定を支援し、資源配分の最適化に資することを期待しています。

あるべき未来に向けて

あるべき未来に向けて、本学は不断の努力を続けていきます。同時に、予測できない事態にも対応していかなければなりません。たとえば、最初に述べた新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐために、全力で対応していかなければなりません。本学も困難な選択を余儀なくされていますが、教職員の皆さんのご理解に感謝するとともに、ご協力を切にお願いするところです。

今年度から、いよいよ大学院が全面的に学位プログラム制に移行します。学位プログラム制を最大限に活用して、学問分野間の壁、学内組織間の壁、機関間の壁、社会との壁、国境などあらゆる壁を越えた本学ならではの教育に磨きをかけ、トランボーダーな人材を育てていかなければなりません。同時に学位プログラム化の実効性についても、新たに立ち上げた教学マネジメント室と教学デザイン室を中心にしっかり検証、改善を進めていきます。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、実質的な授業配当などについて、大幅に変更を余儀なくされています。インターネットを利用した授業配信システムを積極的に利用するなどを含めて、この難局を乗り切るための教職員の知恵に期待しています。

初夏から盛夏にかけて指定国立大学法人の審査が行われます。これは我が国の大学における教育研究水準の向上とイノベーション創出を図るため、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍していける国立大学法人を文部科学大臣が指定する制度です。指定を受けると、研究成果を活用する事業者への出資などが認められ、本学が目指す財源の多様化にはずみがつくなど、本学のあるべき未来に向けた大きな一歩となります。


イノベーション創出を進めるにあたっては、大きな視座から考え、行動することが大切です。昨年開催された筑波会議の内容は、要約するとSociety5.0が実現するSDGsといった趣がありました。SDGsが目指すところは、世界の平和であり、同時に目指す中で「誰ひとり、取り残さず」ということを謳っています。Society5.0はデジタルトランスフォーメーションが進んだ新たな社会です。世の中では、イノベーション創出は新しい技術の創出というような意味で用いられることが多いようです。しかし、本来、イノベーションという言葉は、新しいアイデアから新たな価値を創造し、社会変革に繋げていくことを意味しています。この際、本来イノベーションの主な受益者となるはずの多くの人々が、いまだに除外されているということにも気付かなければなりません。

すべての人を包摂するという意味でインクルージョンという単語が使われるようになってきました。1980年代に、米国の障害児教育分野でこの概念が注目され、日本では障害児が通常学級で学ぶインクルーシブ教育といった使い方がされています。しかし、インクルージョンの語源は、フランスで失業者、障害者など幅広い対象者を含んだ社会的経済的格差を「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」と呼んでいたことに端を発しています。インクルージョンを達成するのは容易ではありません。たとえば、科学技術イノベーションが新たなデバイスを生み出しても、動力がなければ役に立ちませんし、一定の教育を受けていなければ十分に役立てることができません。インクルージョンという考え方は、教育分野から発生し、今では組織運営や社会活動においても使われるようになってきました。ダイバーシティは多様な人材を活かすという意味で用いられていますが、インクルージョンはさらにそれぞれの考え方、経験、能力などが他者に認められ、活かされていることを意味しています。その先には、それらの結果として多様で多彩なイノベーション(インクルーシブ・イノベーション)が創出されると考えられています。社会、組織などを支える者がインクルーシブであるだけではなく、様々な科学技術が互いを強めるように作用し、混ざり合ってインクルーシブ・イノベーションが達成されます。そのためには、新たな科学技術だけではなく、組織・制度、市場・財政などについても十分な考察を行ったうえでの革新が必要です。

国立大学の法人制度を活かすため、また大学という組織による教育と研究およびその成果に基づいた社会貢献を今まで以上に推進するため、すなわち大学変革(大学イノベーション)を進めるためにも、同じような配慮、考察、および革新が必要ではないでしょうか。あるべき未来を築いていくためには不断の努力が必要です。


指定国立大学法人への申請の背景にあるこうした考え方は、審査の結果に関わらず本学が望むあるべき未来を実現するために重要ですので、教職員の皆さんとしっかり共有しながら共に進んでいきたいと思います。

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